猛暑の夏もようやく終わり、過ごしやすくなってまいりました。
お彼岸を過ぎると一気に秋は深まりよい季節になりますね。
秋から春はご婚礼や諸式典の多い時期です。
伝統と格式を重んじ、失礼のない装いを心掛けたいです。
第12回は、礼装に付ける「紋」のお話をいたしましょう。
紋の起源は平安時代にまでさかのぼります。
もともとは、位の高い公家の束帯の紋様つまり、模様でした。
貴族が位の証しである模様を自家のシンボルとして衣服だけでなく調度品や武具
に付けたことが始まりとされています。
室町時代に皇室の菊の御紋に始まり以降、武士の台頭とともに紋は戦場での目印として
旗、幟、幕にも付けられるようになりました。
江戸時代には武家の家柄を表すものとして衣服に付ける習慣が定着しました。
時代劇の侍の羽織には家紋が付いていますね。
黄門様の印籠のように紋を見ただけで身分が判るものでした。
その後、庶民にも装飾的に付けられるようになり明治以降、礼服に付けるよう
なりました。
紋はおよそ一万種類もあります。
日本人は紋を単に家柄を表す印という域にはなく、自家のシンボルとして
誇りと愛着を持っておりました。
紋はデザイン的にも優れ、完成された美しさがあります。
代表的な家紋
紋はその入れ方で格付けがなされています。
紋を入れる技法と、数により格が決まります。
格というとたいへん難しく思われがちですが、基本のルールを覚えれば大丈夫です。
紋入れの技法は大きく「染め」と「刺繍」にわかれます。
染め紋には紋の形を白く染め抜く「染め抜き紋」と色で紋を描く「染め紋」があります。
刺繍紋は「繍紋」(ぬいもん)と言い、菅繍(すがぬい)、相良繍などの刺繍法があります。
このような技法面では「染め抜き紋」が最も格が高く、「染め紋」と「繍紋」は
略式となります。
紋の図柄は正式な家紋と趣味で入れるしゃれ紋があります。
紋の表現も日向紋(ひなたもん)、中陰紋(ちゅうかげもん)、陰紋(かげもん)の順に
格が高くなります。
紋の数にも格付けがあり、五つ紋、三つ紋、一つ紋の順に格が高くなります。
入れる数により位置も決まっています。
礼装(紳士の紋付、黒留袖、黒喪服)には必ず染め抜き日向、五つ紋を入れます。
紋を入れるときは紋の格と入れるきものの格を合わせましょう。
紋の格ときものとの関係を表にまとめましたので
ご参考になさってください。
格 | 紋 | 技法 | 数 | きもの |
高 低 |
家 紋 |
染め抜き 日向紋 | 五つ | 黒留袖 黒喪服 色留袖 |
三つ | 色留袖 訪問着 色無地 | |||
一つ | 色留袖 訪問着 色無地 江戸小紋 | |||
染め抜き 中陰紋 | 三つ | 色無地 | ||
一つ | 訪問着 色無地 江戸小紋 無地紬 | |||
染め抜き 陰紋 | 三つ | 色無地 | ||
一つ | 訪問着 色無地 | |||
繍い紋 日向紋 | 三つ | 色留袖 色無地 | ||
一つ | 色留袖 訪問着 色無地 江戸小紋 | |||
繍い紋 中陰紋 | 一つ | 訪問着 色無地 江戸小紋 無地紬 | ||
繍い紋 陰紋 | 一つ | 訪問着 色無地 無地紬 | ||
し ゃ れ 紋 |
繍い紋 | 五つ | 色留袖 色無地 | |
三つ | 色留袖 訪問着 色無地 | |||
一つ | 色留袖 訪問着 色無地 江戸小紋 無地紬 |
紋の入れ方はお住まいの地域や用途で異なります。
紋はよく似たものがたくさんありますので、
家紋を入れる場合は、お手持ちのきものに入っている紋を
よく見て間違いのないように呉服屋さんに正しく伝えて下さい。
「女紋」について
女紋とは女性がつける桐、藤、蝶などの優雅な図柄の紋を言いますが、
実家の紋や、祖母から母、母から娘へと女系で受け継がれる紋を指す場合もあります。
結婚後の紋は実家の紋でも嫁ぎ先の紋でも構いませんが、お住まいの地方や嫁ぎ先のしきたりによって異なりますので、ご確認なさってから入れられることをお勧めします。
紋は古来からの日本の美しいしきたりです。
祝儀、不祝儀の第一礼装はもちろんのこと、
社交着やおしゃれ着までTPOに合わせて紋を楽しみ
きもの上級者を目指しましょう。